一般的に不動産投資と聞くと、「損をしそう」とかマイナスのイメージを持つ方もいるかもしれません。
一方で、これから日本は『人口減少』と『高齢化』が進んでいく中で、緩やかなインフレが続いていく可能性が高いと見込まれています。
特に、高齢化によって、これからも増え続ける医療費対策のため、現状の金融緩和を続けていく必要があると考えているからです。
金融緩和とは、日銀が行う『市場に出回るお金の供給量を増やして経済を活発化させ、景気回復を図る金融政策』のことです。
市場に出回るお金の量が増えれば、物やサービスの値段は上がり、企業業績が上がり、賃金も上がり…
そうなれば『良いインフレ』ですが、2023年11月現在の日本は、賃金の上昇には繋がっていないのが実情です。
ただいずれにしても、今後緩やかなインフレが続いていくとすると、不動産は土地や建物の『モノ』であるため、不動産価格の上昇も見込まれます。
一般的には、株式もインフレに強い金融資産と言われていますが、今回は『不動産投資』にについてお伝えいたします。
結論からお話ししますと、良い物件を持てばプラス収支になりますし、悪い物件でしたらマイナス収支になる可能性が高いので、物件選びが不動産投資で成功する為の9割以上を占めていると言っても過言ではないでしょう。
とは言え、残念ながら失敗してしまった場合の出口戦略として、売却という手段があるのでリカバリーは可能とも言えます。
ただし、空室率が高い物件の場合は、売却価格も低くなるので大きな額の損失が出てしまいますので、物件選びは慎重にすべきでしょう。
不動産投資のリスク(デメリット)とリターン(メリット)
まず、リスクとリターンについてみていきたいと思います。
リスクはデメリット、リターンはメリットと言い換えることもできます。
不動産投資の最大のリスクとしては、空室リスクです。
不動産投資ローンを組んで購入する事が多いと思いますが、家賃が返済額を上回る事で収益となりますが、空室が出て返済額を下回ると赤字となってしまいます。
リターンとしては、株や投資信託のように金額が変動する事が少ないので毎月安定した収益を得る事が可能です。利回りが10%を超える物件もあるので、高い収益性を確保しながら、物件価格が上がった場合は売却利益を得る事も可能となります。
従って、空室率と利回りのバランスが取れる物件を選ぶことがポイントとなります。
投資不動産の持ち方によりメリットとデメリット
一般的な不動産投資の方法として、区分所有と一棟所有、更に新築か中古かで分けることが出来ます。
区分所有
区分所有とは、マンションやアパートの1室を購入する場合のことを言い、一棟所有とは、マンションやアパート1棟を購入する場合のことを言います。
それぞれのメリットとデメリットについてみていきましょう。
メリット | デメリット | |
区分所有 | ・購入価格が低い ・共有部の修繕費が少ない | ・収益率が低い ・修繕積立金や管理費が掛かる ・築年数の経過で価値が下がる |
一棟所有 | ・収益率が高い ・土地としての価値が下がりにくい | ・購入価格が高い ・高額な修繕費が掛かる事がある |
区分所有のメリットは、購入金額が安く、共用部の修繕費も少なくて済むので、購入するハードルが低く初心者でも始めやすいことです。
デメリットは、収益性が低く管理費や修繕費を支払うと手残りが少なくなりがちで、土地としての価値は低く、築年数に比例して物件価値が下がっていくことです。
一棟所有のメリットは、収益性が高く、複数部屋を所有するので空室が出てもすぐにマイナス収支にならず、土地の価値が下がりづらいことです。
デメリットは、購入価格が高く諸費用も高額になります。共有部や外壁、エレベーターの維持費や修繕費で、大きな出費が必要になる事があります。
新築と中古
次に新築と中古、それぞれについてみていきたいと思います。
メリット | デメリット | |
新築 | ・投資できる年数が長い ・修繕費が掛かりにくい | ・購入価格が高額 ・利回りが低い |
中古 | ・利回りが高い ・購入価格が低い | ・投資できる期間が短い ・修繕費が掛かりやすい |
新築のメリットは、長期間保有でき確定申告の減価償却期間も長く取れます。
物件が新しいため、修繕費用も当初はほとんどかかりません。
デメリットは、購入価格が高くなるため、利回りは低くなります。入居者はゼロからのスタートとなるので当初はマイナス収支になります。
中古のメリットは、購入価格が安く利回りが高くなります。入居率も分かりますし、満室でのオーナーチェンジでしたらすぐにプラス収支になります。
デメリットは、築年数が経過しているために、保有できる年数と減価償却期間が短くなります。また、突発的な物や高額な修繕費が必要になる事があります。
これから不動産投資を始めるのであれば、最初に買う物件は中古が望ましいでしょう。
価格が安いということと、ある程度入居率も読めこと、収益率が高いことから、次の物件購入に繋げやすいです。
単体所有と複数所有
次に、所有する物件数について少しお話ししたいと思います。
一つの物件を持つだけでは、実は収益がマイナスになるリスクが高くなります。
反対に、複数の物件を所有をする事でそのリスクを下げることが出来ます。
例えば、一部屋だけ所有した場合に空室が出れば、空室率は100%になり、負債となってしまいます。
それを、四部屋所有した場合は、二部屋空いても空室率は50%となりマイナスを抑える事ができます。
どんなに良い物件を購入しても必ず空室になる期間は出ますが、複数所有していた場合に全ての部屋が空室になるという可能性は低くなるので、複数の物件を所有する事をお勧めします。
投資物件の選び方
不動産投資物件を購入するほとんどの場合、不動産投資用のローンを組んで購入すると思いますが居住用の物件に比べ、不動産投資用のローンは金利が高くなります。
年収や預貯金、勤務先や他の借り入れなどによって、借り入れ可能な金額が変動します。
個人により差はあるものの、借入限度額には限界がありますので、いくらでもローンが組めるわけではありません。
従って、新築で金額が高く利回りが低い物件を購入すると、次の物件を購入しようとした際に、ローンを組みにくくなる為、最初の物件は金額を抑えた中古物件が望ましいと言えます。
注意すべき物件
特に注意しなければいけない物件の例として、都内の高額な区分所有の新築マンションがあげられると思います。(※2023年現在)
「ローンを組んでいる間は、マイナス収支で節税が出来て、ローンが終われば老後の資金として資産になります」
なんて、言われたことがある方もいるのではないでしょうか。
はっきり言うと、この場合、物件を購入した時点で失敗する可能性が高いです。
入居者が居てもマイナス収支の場合、引っ越しなどで入居者が居ない月、新しい入居者が決まらず空室になってしまっている場合は毎月大きな赤字となります。
最悪、ローンが払えなくなってしまい、安い金額で売却しなければいけ無くなれば、さらに大きな損失となってしまいます。
不動産投資は節税の為にするよりも、利益を出して自身の収益を増加する為に投資するものと考えるのがいいでしょう。
その観点から物件選びは、ローンを組んでいる間にプラス収支になる物件を選択する必要があると言えます。さらに、マイナス収支にならない為には、複数物件を所有し、空室率が40%でも赤字にならないように設計できるとリスクをかなり下げる事が出来ます。
「空室補償」にもご用心
また、『空室補償』を売りにしている場合も注意が必要です。
保障がある分、物件価格や管理費が高額な事が多いです。
受け入れるリスクは受け止めた上で、リスクを減らす方法を取らないと、逆に損失を出す事になりかねません。
それでは、具体的な購入例で見ていきましょう。
【物件情報】
築20年 8部屋の木造アパート
物件価格:3,000万円
利回り:10%
35年ローン/金利3.5%
購入時の諸費用:400万円(頭金、登記費用、仲介手数料、不動産取得税、火災保険など)
毎月の家賃収入:25万円
毎月の諸費用:3万円(管理費、清掃費、共用部光熱費など)
毎月のローン返済額:11万円
毎月の手残キャッシュ:11万円
マイナス収支になる空室率:44%(実際には3部屋まで)
年間収益:132万円
固定資産税:25万円
年間手残りキャッシュ:107万円
上記の場合、元金回収までは4年間で、30年で3,210万円の利益が出ます。
家賃 25万円/月 ー 諸経費 3万円 ー ローン返済 11万円/月 = 月間収益 11万円
11万円 × 12か月 = 年間収益 132万円
132万円 ー 固定資産税 25万円 = 手残りキャッシュ 107万円/年
107万円 × 4年 = 428万円(初期費用 400万円を4年で回収)
107万円 × 30年 = 3,210万円
修繕費と空室分を入れていないので、実際にはもう少し下がりますが十分な利益ではないでしょうか。
30年後にはさすがに物件も限界が近いと思いますので、建て直すか更地にして土地を売却するという選択肢になるかと思います。土地として2,000万円で売却できた場合、ローン残債が700万円として1,300万円の利益が出ますので、更に利益の上乗せが可能です。
2棟持てば2倍、3棟持てば3倍の効果が期待できます。
一般的な場合ですと、組めるローンは4,000~7,000万円が目安となりますので、どの様な組み合わせにするか想像しながら投資をして行きましょう。
資産と負債
次に、『資産と負債』の考え方についてお話しします。
良い車を買い、高い住宅を購入した場合、資産と考える方が多いと思いますが、投資上では負債として考えます。
何故かと言いますと、ローンを組んで購入した場合、出費は増えますが収入は生まないからです。
反対に、持っている物件が収益を生む場合は資産という事が出来ます。
例えば、6,000万円で居住用物件を1つ買う場合と、6,000万円で居住用物件と投資用物件の2つを購入する場合を比較してみます。
パターン1
6,000万円の居住用物件を、金利0.4%、35年の住宅ローンで購入した場合
→ 毎月の返済額:15.3万円
パターン2
3,000万円の居住用物件を、金利0.4%、35年の住宅ローンで購入した場合
→ 毎月の返済額:7.6万円
3,000万円の投資用物件を、金利3.5%、35年の不動産投資ローンで購入した場合(利回り10%)
→ 毎月の返済額:11万円
→ 毎月の諸費用:3万円
→ 毎月の家賃収入:25万円
3,000万円で居住用物件を購入していて、さらに投資物件も持っていた場合、居住用の住宅ローンを返済しても毎月3.4万円のプラス収支になります。
同じ6,000万円で不動産を購入しても、毎月15.3万円の支出になるのか、毎月3.4万円の収入になるかが変わってきます。
これはあくまで一つの考え方であって、住宅のグレードは当然6,000万円の方が高くなりますが(笑)
保障としての効果
その他にも、二世帯住宅を購入して一部屋を貸し出すという事も有効です。
団体信用生命保険を付帯する事が多いと思いますので、不動産投資ローンの契約者が死亡した場合、遺族は不動産投資ローンが無い不動産を相続できるので、家賃収入を生活費として使ったり、売却して資産にしたりする事も出来ます。
上記の様に生命保険に近い使い方もできるので、余分な保険料を抑える事にも繋がります。
不動産投資のリスク分散
不動産投資も良い事ばかりではありません。
修繕費や退去後のクリーニング代はオーナー負担です。
細かな修繕では、鍵の交換、網戸の張替え、インターホンの修理、給湯器やエアコンの故障、害虫駆除など様々です。
高額な修繕としては、外壁塗装、エレベーターの保守などがあります。
そして、最も高額になるのは現物投資の為「逸失リスク」です。
火災や台風は火災保険で補償されますが、地震に関しては、地震保険で補償できるのが50%(一部の保険会社は特約で上乗せ可能)までとなるので、足りない分は現金や不動産投資ローンでカバーしなければいけません。
従って、同じ地域に複数持つよりも地域を分散させる事で、地震や天災による逸失リスクの軽減を図ることが出来ると言えます。
数の分散と、地域の分散はどの投資にも共通してくる部分ですので、活用してみて下さい。
リスク回避のための保険
リスク回避としての手段の一つとなる、火災保険に関する注意点についてお話しします。
自身が居住しないので補償を抑えようとする考えもありますが、目の届かない場所に他人が居住することを考えると、保険の補償内容は充実させておく事をお勧めします。
一回の災害で数十万円から数百万円の修繕費がかかる事もあります。
初期費用を削減しようとして、補償内容を変更したために、保険が使えない時の方がダメージは大きいです。
また昨今は、オーナー向けの特約も充実しておりますので、災害時の家賃補償、孤独死や事件などの清掃費や家賃の下落分、残置物の処分費用をカバーできる特約を検討することもお勧めします。
団体信用生命保険について
最後に、不動産投資ローンに加入する生命保険(団体信用生命保険)についてお伝えいたします。
通称『団信』(だんしん)と呼ばれる保険の特徴は、下記のものなどがあります。
- ローン借り入れ時に加入が義務付けられている。
- ローンの利用者しか加入できない
- 死亡や高度障害時に保険金が出て、ローンが完済される。
- 特約を付けることで、3大疾病や介護に備えることもできる。
- 保険料(掛け金)はローン金利に含まれる
団信は、ローンを借りることができる人(経済的に安定している)しか加入できないこと、また繰上げ返済等を利用しながら定年の60歳、もしくは65歳で完済する方も多いため加入者の年齢が若いこと、等から、一般的な保険よりも加入者の死亡や健康リスクが低くなります。
そういった背景から有利な(手厚い)内容が提供できます。
これは自宅を購入するための住宅ローンでも同様です。
よく『住宅購入時は保険を見直す絶好のタイミング』と言われますが、この団信に加入することがその理由です。
これらの守り(保険)と攻め(資産形成)の両方を兼ね備えたのが不動産投資と言えるでしょう。
不動産投資は手軽に誰でも出来るとは言い難いですが、正しい知識と物件選びを間違えなければ、様々なメリットを享受できる投資手法とは言えるでしょう。
専門家に相談しながら、勇気を持って一歩を踏み出してみて下さい。